【新刊紹介】『僕のヒロシマノート』
木原省治 著


七つ森書館 定価:2200円+税
ISBN4-8228-0599-9
目次
第一章 母を恋うるヒロシマ
  • 被爆から六十年目の正月
  • 被爆五十年
  • 母親の死後
  • 母わが命−日記より
  • 母の死から……
  • 被爆二世として
第二章 僕のヒロシマノート
  • 廣島・ヒロシマ・広島
  • ヒロシマ発ヒバクシャ
  • ヒロシマの訴えるもの
第三章 百年後もヒロシマでありたい
  • あらためて碑文論争を考える
  • 高木仁三郎さんの死、エロスについて語った思い出
  • 修学旅行生との会話
  • 「平和学習」が少なくなった広島
  • 多くのことを教えてくれた被爆者との出会い
  • 「ヒロシマの心」……
  • ヒロシマの心。それに応えなくては……
  • 被爆六十年の経過の中で
  • 百年後もヒロシマでありたい
あとがき


 「原発はごめんだヒロシマ市民の会」の木原省治さんの新刊です。

 第一章「母を恋うるヒロシマ」では、木原さんと、亡きお母さんとの深い絆が描かれています。木原さんのお母さんは、早くにお連れあい(木原さんにとってはお父さん)を亡くされ、被爆によって傷ついた身体で、結婚前に勤めていた郵便局に再度勤めることで、言わば「女手ひとつで」木原さん姉弟を育てられました。

 私は、木原さんの根底には人間への優しい眼差しがあると薄々気づいていました。それは、第三章「百年後もヒロシマでありたい」の「修学旅行生との会話」に登場するピアスをし、広島での修学旅行のことを「だるい」「おもしろくない」「家に帰りたい」と言い、碑めぐりにも加わらず、レストハウスで缶入りの飲み物を飲んでいた中学生の女の子が、「修学旅行の思い出」で木原さんのことを「おじさんに会ったとき、何かおもろい人やなぁって思った。不思議になじんだ。また会わしてな」と書いていたことにもあらわれていると思うのです。

 そして一方で、それは、地元の人間関係を破壊してでも原子力発電所を上関に押しつけようとする中国電力に対して木原さんが見せる怒りと表裏一体のものだと思うのです。

 そういった木原さんの優しさが、亡きお母さんの注がれた深い愛情からきていることがうかがえます。

 第二章「僕のヒロシマ・ノート」では、1978年春の第1回国連軍縮特別総会の開催前に、原水爆禁止国民会議(原水禁)などによって企画されたアメリカの平和運動団体などとの交流や集会参加のためのツアーに参加し、8月6日のヒロシマ・デイ、9日のナガサキ・デイに原発前で抗議行動を行なっている平和運動の人たちと出会ったことがきっかけとなって、木原さんは反原発運動を始めたことが書かれています。

 そして第三章「百年後もヒロシマでありたい」にかけて、原発ヒバク労働者の故・岩佐嘉寿幸さん、タヒチのフランス核実験ヒバクシャ、スリーマイル島原発事故の被害を告発したメアリ・オズボーンさん、チェルノブイリ原発事故のヒバクシャ、原子力資料情報室の故・高木仁三郎さん、お連れあいの久仁子さん、昨年4月に起きたイラク人質事件の今井紀明さんなどとの交流や出会いが書かれています。木原さんが、被爆二世として、核廃絶、脱原発、反戦・平和に向かって多くの人々とつながって行こうとする人であることを感じます。しかも、そのつながり方は、上から見下ろしたり、おもねったり、迎合したりといったものではなく、ひとりの人間がひとりの人間とつき合うというものだと思うのです。「市民運動は対等・平等が原則」ということを実践しておられる数少ない人なのではないかと感じています。既に紹介したピアスをし、広島への修学旅行を「だるい」「おもしろくない」と言い、碑めぐりにも加わらなかった中学生の少女が、木原さんのことを「何かおもろい人やなぁって思った。不思議になじんだ。また会わしてな」と書いたのは、木原さんのそういった姿勢、人となりにもよっているのではないでしょうか?

 広島カープのスカウトだった木庭教さんを描いたノンフィクション『スカウト』(講談社)で、著者の後藤正治氏は、「人はだれも、どこかで人生を費やすべき対象と出会い、それと取り組み、歳月を重ねていく。歳月のなかで、人はときに高揚を味わい、多分に挫折や倦怠を覚え、さまざまな垢を付着させていく。それでもなお、人は自分が選んだ対象に肉薄していく他に生きるすべはない」と書いていました。木原さんは、決して英雄豪傑などではありません。「挫折や倦怠を憶え」ることもある、お母さんやお姉さんを亡くされて気落ちするなど様々な弱さを垣間見せるひとりの人間であることを私は知っています。しかし「それでもなお」、「選んだ対象」である反原発運動に「肉薄してい」こうと苦闘し続ける人であることも私は知っています。そんなひとりの人間、木原省治が自らの根底、言わばルーツを赤裸々に語る書と言ってよいと思います。
(伊達 純)


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